図書館から借りて読みました。

偶然ですが、NHKドラマで再放送が来週始まるようです。

図書館の本で帯がかかっていなかったこともあり、死を間近にした若い女性がホスピスで過ごす日々が描かれているなんて、全く知らずに読み始めました。

この小説の素晴らしいところは、主人公の雫が三十三歳と、私とは二十以上違うのに、多分自分も死を前にしたらこんなふうかな、とすんなり感情移入できるところ。

「人生の最後ぐらい、誰にも気兼ねせず、一人の時間を過ごして逝きたい。それに、自分が弱ってボロボロに朽ち果てていく姿を、誰にも見られたくないという傲慢な気持ちも、まだちょっと残っている」

という、気丈で老成した性格の雫。

その一方で、未婚で恋愛経験も豊富とは言えず、「私、もっと生きて、世界中のいろんな風景見たかったなぁ」とやり残したことを思って心が揺れるのも、死を前にした人間の普遍的な感情だと思います。

物語の大部分は雫の一人称語りで進められるのですが、それだと主人公の死後のことを現世の側から描くことができなくなります。

しかし、育ての父親との再会、思いがけない妹(実際は従妹)の登場でその点の問題が解消されている所が、作者の力量の確かさ、といったところでしょうか。

「死を迎えつつある若い女性」という題材って、それだけで痛ましいので、かえって表現に制限がかかる難しいテーマだと思います。

でも、「ライオンのおやつ」なんて、可愛らしいタイトルなのに、初老の女(=私)にも「死に際」について考えさせる、すごい野心作だと思いました。

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