忙しい毎日が続き、予定よりだいぶ遅れましたが、本日「Ⅵ 読者に届ける」を読んで、本書を読了しました。
6章で印象に残った部分として、「文体」に関する上野さんの見解があります。
…わたしは文体がひとつに決まると、かえって思考を制約すると考えています。ある文体で考えられることと考えられないこと、それで表現できることとできないことがあります。ですから文体は複数持っていた方がよいのです。(356頁)
私は小説家だったらいろんな文体を試みることが必要かもしれないけれど、上野さんのような学者が複数の文体を使い分けているとは思わなかったので、とても意外でした。
本書の文体も「です・ます」調でいくか、「だ・である」調でいくか、悩みました。結果「です・ます」調を選びましたが、そのことは内容にも影響していることでしょう。(357頁)
…なるほど。上野さんが「です・ます」調を本書で採用したことは、大成功だったのではないでしょうか。だって私のような「研究」とは縁のない人間が読んでも、とてもおもしろい示唆に富む一冊になっているのですから。
情報生産者とはまだ見ぬコンテンツを世に送る者たち。そしてそれを公共財にしたいと願う者たちです。そのためにはあなた自身が「今・ここにないもの」を夢見る能力を持っていなければなりません。もう一度、冒頭に戻りましょう、それこそが「問いをたてる」能力のことです。(371頁)
本書はこのような上野さんの温かい励ましがあちこちにあって、やる気を奮い立たせてくれるのです。
特に予定はないのですが(笑)、長い人生ですから、私だって今後「情報」の発信の必要性を感じる時が来るかもしれません。あるいは、なくても本書はこれからも繰り返し読みたいを思える、素晴らしい一冊でした。